弱さを知る。弱さと知る。

いきつけのBarで、いつもの酒を頼む。
いつもと変わらぬうまい酒を、いつもおんなじ顔のマスターが
いつものように目の前に置いてくれる。
長いながい時間のあとで、やっと私が手にした場所。
それも、いつなくしてしまうかも知れない危うい蜃気楼のようなオアシスだ。

適度な酒、というのができない。
なぜ記憶をなくすまで飲み続けるのか、自分でもどうしてもわからない。
それほど酒に強い訳でもないのに勢いで飲み続けるうちに、体のほうが先に音を上げてしまう。
胃の中に何もない状態になっても吐き気がおさまらず、涙を流しながら胃液を吐く。
どの店でいつまで飲んでいたのか、ちゃんと代金を払ったのかもわからぬまま
気がつけば自分の部屋の天井を見上げている。どうやって家にたどり着いたのか思い出せない。
ああ、またやってしまった。
途切れ途切れの記憶から昨夕の己の姿を探る時の、絶望的な気分。
それでもまた日は暮れて、限りない一杯との時間が始まる。

なぜ、と思う。
こんなにつらい思いをしてまで、なぜ飲んでしまうんだろう。
酒を飲む理由は人それぞれ違う。

旨いから。
気分が良くなるから。
楽しい気分を盛り上げたいから。
つらいから。
寂しいから。
いやなことを忘れたいから。
それぞれの理由があって、人はみな酒を飲む。

けれど、そうでない人もいる。
ただ、飲む。あれば飲む。なくても探して飲む。
飲んで飲んで飲んで、まだ飲む。
自分をなくし、周りをなくし、世界をなくしても、飲み続ける。

何がそんなに苦しいのか。何があなたを苦しめているのか。
自分が、自分を取り巻く世界がどんな風にその目に映っているのか、感じているのか。
それはいつか終わりがくるのか。

もう一度、あたたかく心地よい自分の居場所に、たどり着くことができたのか。
もう誰も彼に聞くことはできない。

けれど、この本の帯にもあるようにきっと、幸せであったろうと思う。
幸せであって欲しいのだね、皆きっと、ね。

酔いがさめたら、うちに帰ろう。

酔いがさめたら、うちに帰ろう。